キサラギ

 観てきました。みなとみらい地区シネマ109にて。既存の芝居を映画化したものでなくて、完全新作なのかな。いわゆる「12人の優しい日本人」みたいな、一つの舞台、一つの空間、一つのシーンを固定して、そのなかで登場人物たちの掛け合いによって物語を進める方式。出てくるキャラは、タイトルにもなっているアイドル・如月ミキを除くと男5人のみ(オチの人は数えなくていいよね)。いや、本当に面白かった。派手なアクションとかCGな映像美を堪能したいのならば「300」なんでしょうが、個人的に面白さだけを判断材料とするなら「キサラギ」に軍配を上げたいところです。さくさくさくと話が進んでいき、時間を忘れるほど楽しませてくれます。また登場人物も非常に魅力的で、特に家元にはいろんな意味で感情移入してしまいました。私は今現在も痛い奴ってことに変わりないのですが、十代の頃はまあスーパーな状態で、ちこっと回想するだけで床をのたうち回りたくなるほど身の程知らずで阿呆だったのです。高校三年卒業前後の記憶がトンでるのは、おそらく脳が完全忘却を選択したためであろうと考える程に。勿論正視に堪えないファンレター、それに類するものなんてな腐るほど書きました。タイムマシンがあったら書いてる自分を殴りにいきたいくらいの酷い文面ですよ。それでも、そんなファンレターでも、あるいは……なんてね。男たちは自らの正体を明かしつつ、キサラギの死の真相に近づいていきますが、それはすべて主観に基づいた、都合のいい虚像に過ぎず、たまたま説得力が備わっていただけのこと。
 辛い現実から自らを救ってくれる虚ろな、実体のない何かがある。男たちにとってのそれがキサラギであり、またキサラギ自身も男たちの向ける情熱に負けないだけの愛すべきアイドルであった事実(仮説だとしても)を再確認させていくプロセスは、この作品が正しくハッピーエンドであった証左でありましょう。しかし、それにしても、です。全編にわたり笑いを散りばめつつ、これだけ気持ちのいい物語に仕上がっている作品だというのに、宣伝や上映されている場所が少なすぎやしないか。せめて「UDON」くらいはバシバシCM入れてくれてもバチは当たらない筈ですよ。